今年の夏に床板のご注文を頂いた木曽の新築現場が完成した、という知らせを受け、先日会社のスタッフみんなで見学させて頂いてきました。
伊那市のすぐお隣宮田村にて、ご夫婦で建築設計事務所を主宰されている「暮らしと建築社」さんが設計監理を手掛けられた物件です。http://www.kurashitokenchiku.com/
今回納めさせて頂いた床板は、栗(クリ)と唐松(カラマツ)の二種類。
栗のフローリング
有賀製材所では地元の木を使って様々な床板・壁板を作っていますが、その多くが針葉樹(マツやヒノキ、スギ)の中にあって、栗は数少ない広葉樹の仲間になります。
広葉樹独特の「表情豊かな木目」と「色合いの美しさ」が栗の大きな魅力の一つです。また、針葉樹に比べて堅い木のため傷が付きにくいという点も魅力です。
栗とよく似た木で楢(ナラ)材もありますが、こちらは栗よりも更に堅く重厚感のある床材で、割と一般的に流通している床材のため比較的目にする機会が多いと思いますが、栗のフローリングはあまり市場に出回っていないため珍しいかもしれません。
暮らしと建築社さんではかれこれ十数年来、有賀製材所の栗フローリングを設計に取り込んで頂いており、過去にも沢山の現場に納品させて頂いてきましたが、今回設計の須永次郎さんに栗のフローリングの何処が良いのか改めてお話しを聞きしたところ、上に記した魅力はもちろんのことですが、それ以上に「温かさ」が大きな魅力だと話してくれました。
先程のナラ材と比べても、室内の体感温度が圧倒的に栗の方が温かく感じるそうです。確かにナラと栗とでは、見た目はよく似た広葉樹ですが木材の重さは圧倒的に栗の方が軽いのです。軽いと言うことは木の繊維内に空気を多く含むため重たい木に比べると肌触り(表面温度)は温かく感じられるのです。この「表面温度」が実はとても大切で、内装に使っている素材によって床や壁天井の表面温度が違うため、仮に同じ室温の部屋であったとしても人が感じる体感温度は全然変わってくるのですね。
カラマツのフローリング
こちらはカラマツの柾目(まさめ)フローリング。広葉樹と違って針葉樹らしい直線的な木目が美しい床板です。ここ数年有賀製材所で試作を続け、最近新たな床板として自社使用、更には販売に力を入れている床板ですが、以前何かのおりに「こんな床板もあるよ」と暮らしと建築社さんにご提案したところ、早速設計に取り込んで頂きました。
一本の丸太でも製材の仕方によって板の木目が様々な表情に変わりますが、この柾目(まさめ)は樹齢70~80年以上の太い丸太からしか取れない貴重な材になります。
今でこそカラマツ材はそこそこ建築用材として見直されてきましたが、つい最近まで(いや今でも)”カラマツなんて” などと言われて敬遠される時代が続いてきました。でも、こんな綺麗な木目のカラマツを使わないなんてもったいないですよね。
見学させて頂いた建物は週末だけ山暮らしを楽しむための別荘とのこと。私たちが伺った15時頃は木曽の山あいの地は既に日が暮れかけ、一気に気温が冷え込む時間でしたが、南に面した大開口の窓から日中たっぷり日差しを取り込んだ室内はストーブを一切焚いてないのにも関わらず大変温かく、そしてとても明るく開放的なおうちでした。大工さんも大変丁寧な仕事をされており、普段他社の仕事を見る機会が少ない製材所のスタッフたちも興味津々で見学させて頂きました。
先程カラマツ材が建築用材として見直されてきたと書きましたが、ただその実状は”合板使用”です。現在の住宅は合板を多量に使用する為、その材料にカラマツ材が多量に使われるようになったのです。確かに建築用材ではあります。でも我々無垢の木を扱う製材所の人間からすると、このカラマツ材の美しい木目や粘り強い強度、輸入の米松(ベイマツ)材には出せない美しい赤身の色合いを、もっとダイレクトに構造材や仕上げ材として、実際に目に見えて触れられるところに使いたい思いが強いのです。
そんな思いを共有してくれる暮らしと建築社さんのような設計事務所さんがこの地域の中に居られることは、同じ設計者として、更には無垢の木を扱う製材所としてとても心強く思います。今回の見学、本当にありがとうございました!
そして今この伊那谷には同じような意識を持った設計士さんや工務店さんが増えてきたと感じます。今後もそんな方たちと一緒になって面白い仕事が出来れば良いなと思っています。
それにしても木曽と伊那谷を結ぶ権兵衛トンネルの通行止めで、普段ならものの30分で行けるところがその3倍掛かりました^^; 先日の新聞で、年内に仮設の道路が整備されるような記事が載っていましたがどうなんでしょうかね?一日も早い復旧が望まれます。